2025年10月7日、東京都中央区日本橋兜町に「キャプション by Hyatt 兜町 東京」が開業した。地上12階・地下1階、全195室。鉄骨造を主体に木造を組み合わせた木造ハイブリッド構造を採用し、ファサードや客室周辺に露出する柱と梁が、都市型中層ホテルの新たな構造選択を示している。本稿では、建築費坪単価がRC造173.6万円・木造123.1万円と乖離する2024年以降の市況下で、なぜ大手ブランドが木質化を選んだのか、構造種別と客室規模、立地条件から開発判断を読み解く。
※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)。

Media Picks Score: 89 / 100 195室、鉄骨造一部木造(木造ハイブリッド構造)、地上12階・地下1階・塔屋1階。
目安価格 ¥47,000–¥61,000 / 泊 (2名1室・通常期、p25–p75)
建築費高騰と木質化の選択
2024年以降、国内ホテル建設の坪単価は急上昇している。建設物価調査会・建築費指数の集計では、ホテル用途のRC造で坪173.6万円、S造で同水準、木造で123.1万円の水準が公表されており、構造種別による差は約50万円に達する。客室1室あたり25〜30㎡の中規模ホテルでは、200室規模で総事業費が30〜50億円規模に膨らみ、初期投資の圧縮が事業成立の最重要論点になっている。
「キャプション by Hyatt 兜町 東京」が採用したのは、純木造ではなく、鉄骨造と木造を組み合わせたハイブリッド構造である。耐火性能と階高制約への対応で鉄骨を主構造に置きつつ、客室周辺の柱・梁、ファサードの一部に耐火集成材を用いることで、内装木質化と構造躯体の木材利用を両立した。純木造での12階建ては現状の耐火認定上、相応の検証コストを要する一方、ハイブリッド構造であれば既存の構造基準で計画でき、木質化の意匠的価値と工期短縮の双方を得られる構図である。
客室規模195室と構造種別の整合
客室数195室、地上12階という規模は、純木造ホテルでは現時点では事例が極めて限定的なゾーンに位置する。日本国内で純木造として実現した中層ホテルの代表例は「ザ ロイヤルパーク キャンバス 札幌大通公園」(2021年10月開業、11階建、105室、9〜11階のみ純木造)であり、客室規模が二桁前半に留まる。

200室規模に踏み込む際の論点は、防火区画の取り方と階段室・廊下の耐火性能の確保にある。本案件では鉄骨造を主構造とすることで、客室規模を大きく取りつつ、内装木質化と一部構造木質化の両立を実現している。客室4タイプ、スイート5室を含む構成は、純粋なビジネスホテルではなく、出張需要とインバウンドのライフスタイル層の双方を取り込む設計判断と読める。
立地: 兜町・茅場町という選択
東京メトロ東西線 茅場町駅徒歩1分、日比谷線・浅草線へも徒歩圏内。証券取引所の所在地として知られる兜町は、近年「KABUTO ONE」(2021年竣工)など平和不動産主導の街区再開発が進み、金融街からカルチャー発信エリアへの転換が進行中である。本物件はその再開発の一環で、敷地・運営権スキームのオーナーは平和不動産、ホテル運営はハイアットホテルズアンドリゾーツが担う。
都心駅前で12階建・195室という規模を木質化ハイブリッドで成立させた背景には、オーナー側のESG指標としての木材利用要求、ハイアット側のサステナビリティ訴求、そして土地代の高い都心立地で木造による坪単価低減を取り込みたい事業性、の三層構造がある。地方都市での3階建て純木造とは別の動機軸で、都市型中層木造化の到達点を示すと言える。
料金水準と需要構造
公開販売価格の集計(708サンプル、開業後90日間、1室2名利用)で、25パーセンタイル ¥47,000、中央値 ¥53,000、75パーセンタイル ¥61,000。最低料金 ¥37,000、繁忙日のピーク料金 ¥135,000まで分布する。同エリアの既存中規模ホテル(茅場町・八丁堀・東京駅東口)の中央値が ¥18,000〜¥28,000帯にあることを踏まえれば、約2倍の価格帯で需要を取りに行く設計である。
レビュー集約スコアは公開段階で4.77(5点満点)と高水準で推移している。サンプル数は開業直後で薄く(9件)、評価の定常化には半年程度の観察が必要だが、初期反応としてはハイアットブランドの基幹要件をクリアしている水準と見られる。木質意匠そのものへの言及が複数確認されており、構造投資が体験価値に転化していることがうかがえる。
開発スキームが示すもの
本案件が新規開業ニュースとして注目される理由は、単に「木造を採用したホテル」だからではない。建築費坪単価がRC造で173.6万円まで上昇し、客室1室あたりの建設費負担が10年前比で約1.6倍に膨らむ中で、構造種別の選択が事業計画の柔軟性に直結し始めたという市況転換点に、大手オペレーターブランドが正面から対応した点にある。
木材利用にはJ-クレジット制度や建築物の脱炭素化評価といった、金融・税制面でのインセンティブも段階的に整備が進む。SE構法やCLT工法による中規模ホテル木造化モデルは、農林水産省ウッドチェンジ協議会の提案として、200室規模・3〜5階建ての標準モデル案も提示されている。「キャプション by Hyatt 兜町 東京」は、こうした政策誘導と都市型開発の中間に位置するハイブリッド解として、後続案件の比較基準になる事例である。
主要諸元

- 所在地: 東京都中央区日本橋兜町
- 最寄り駅: 東京メトロ東西線 茅場町駅徒歩1分(日比谷線・浅草線 各駅徒歩圏内)
- 客室数: 195室(4タイプ、スイート5室を含む)
- 規模: 地上12階・地下1階・塔屋1階
- 構造: 鉄骨造一部木造(木造ハイブリッド構造)
- 開業日: 2025年10月7日
- オーナー: 平和不動産株式会社
- 運営: ハイアットホテルズアンドリゾーツ(キャプション by Hyatt ブランド、世界4軒目)
- 主要施設: 1階「Talk Shop」(カフェ&バー)、レストラン、フィットネスジム、ミーティングルーム
よくある質問
Q. 純木造ではなくハイブリッド構造を選んだ理由は?
A. 12階・195室という規模で純木造を実現するには、現行の耐火認定取得や構造検証に相応の時間と費用を要する。鉄骨主構造に木造柱・梁を組み合わせるハイブリッド方式であれば、既存の構造基準で計画でき、工期短縮と木質意匠の両立が可能になる。建築費高騰下の現実解として有力な選択肢である。
Q. RC造と比較して建築費はどの程度抑えられるのか?
A. ホテル用途の坪単価はRC造173.6万円、木造123.1万円が公表水準(建設物価調査会、2024年)。ただしハイブリッド構造の場合は両者の中間で、構造種別の比率と耐火仕様によって実額は変動する。本案件の総事業費は非公表だが、純木造化の進度に応じて坪単価減のメリットを部分取り込みする構造である。
Q. 「キャプション by Hyatt」とはどのようなブランドか?
A. ハイアットの新ライフスタイルブランドで、地域コミュニティと旅行者をつなぐ「社交場」を中核に置く中規模ホテル。本物件は世界4軒目、東京初進出。1階「Talk Shop」を朝食からバー時間まで通日営業し、地元利用と宿泊客の動線を重ねる設計が特徴。
Q. 法人契約・領収書発行は可能か?
A. ハイアット公式予約システム経由での法人プログラム加入、領収書宛名指定が可能。詳細は公式サイトの「企業向け」窓口を参照。
Q. 後続の中層木造ホテル案件の見通しは?
A. 三菱地所が札幌で実施した純木造ハイブリッド方式に続き、本案件が東京中心部で12階規模を実現したことで、地方中核都市の駅前再開発案件で同方式を採用する流れが見込まれる。農林水産省ウッドチェンジ協議会の中規模ホテル木造化モデル案も並行して提示されており、3〜5階建て地方型と中層都市型の二系統で事例が積み上がる段階に入っている。
本記事の参考情報
・平和不動産株式会社 — オーナー・開発主体
・キャプション by Hyatt 兜町 東京 公式サイト — 運営事業者ハイアット
・林野庁 ウッドチェンジ協議会 — 中規模ホテル木造化モデル案の検討主体
・国土交通省 CLT普及に向けた取組 — 木造化政策の枠組み
編集部から
木質化中層ホテルの開発は、これまで地方部の3階建て規模に限定的に見られた現象だったが、都心部での12階建・200室規模の実現により、構造選択の幅が一段拡がった。建築費坪単価のRC造・木造間ギャップが今後さらに開けば、ハイブリッド構造の採用比率は中規模ホテル開発の定石として定着していく可能性がある。次回は、地方中核都市で進行中の3〜5階建て木造ホテル案件を、坪単価と税制インセンティブの観点から取り上げる予定。