建設費高騰と都心オフィスの空室を背景に、既存のオフィスビル・商業ビルの躯体をそのまま活かし、客室へ用途転換(コンバージョン)してビジネスホテルへ再生する事例が2026年に増える。新築より工期と坪単価を抑えられる一方、窓割り・配管・天井高といったビル固有の制約が客室仕様に残る。本稿では、公開情報で確認できる転用型の3施設を室数・立地・転用元用途で読み、この開発手法の事業構造と滞在品質への影響を整理する。
| 施設 | 立地 | Score | 客室 | 転用元 | 開業 |
|---|---|---|---|---|---|
| MIMARU東京 上野NORTH | 台東区・上野 | 91 | 40 | 築27年オフィスビル | 2018-02 |
| Minn 日本橋水天宮前 | 中央区・水天宮前 | 88 | 29 | オフィスビル | 2025-07 |
| トーセイホテル ココネ蒲田 | 大田区・蒲田 | 83 | 90 | 中古オフィス一棟 | 2025-12 |
※ 目安価格は公開販売価格の集計に基づく参考値で、実際の予約料金とは異なります。1泊2名利用時の1室あたり料金(税込)です。開業直後・データの薄い施設は価格を省く。
なぜ2026年に「躯体転用」が増えるのか
用途転換が選ばれる理由は3つに整理できる。第一に、建設コストの高騰である。資材と人件費の上昇で新築の坪単価は上がり続け、既存躯体を残す転用は工期と初期投資を圧縮できる。第二に、都心オフィスの空室である。働き方の変化で中小規模ビルの空室が増え、賃料収入が伸びない資産の出口としてホテル転用が浮上した。第三に、宿泊需要の回復である。訪日客の増加で客室供給が追いつかず、立地の良い既存ビルを短工期で客室化する動機が強まった。
ただし転用は無条件では進まない。ホテルは不特定多数が宿泊するため、オフィスより厳しい安全基準が課される。避難経路の確保、スプリンクラー設備の設置、耐震補強が必要になる場合があり、これらが投資額と工期を押し上げる。転用の成否は、この法規制対応と、後述する客室仕様の制約をどう吸収するかで決まる。
転用元の用途が、客室のかたちを決める
躯体転用の客室仕様は、転用元の用途に強く縛られる。オフィスビルは1フロアが200㎡を超える無柱空間で、窓は外周にしかない。この平面を客室に割ると、外周に沿った広めの部屋を1フロア4〜6室設ける形になりやすい。結果として、シングル中心のビジネスホテルではなく、1室30〜50㎡級のアパートメント型に落ち着く事例が多い。水回りの配管を新設できるかどうかが、レイアウトの自由度と投資額を左右する。
MIMARU東京 上野NORTH — 台東区・上野
築27年の事務所ビルを転用した、躯体転用アパートメントホテルの先行事例。1フロア200㎡超の無柱空間を4〜6室に割った。
Media Picks Score: 91 / 100 40室、アパートメントホテル。
目安価格 ¥54,000–¥80,000 / 泊 (2名1室・通常期)

2018年2月8日開業。大和ハウスグループのコスモスイニシアが、築27年のRC造8階建て(地下1階)の事務所ビルを転用した。1フロア200㎡超のオフィス空間を、1フロアあたり4〜6室、4〜6名収容の客室に割り、全40室とした。全室にキッチンとダイニングを備えるアパートメント型で、家族・グループの長期滞在に対応する。客室サイズは34〜52㎡。躯体転用でありながら住宅事業のリノベーションノウハウを活かした点が特徴で、開業当時の建物評価コンテストでも評価された。転用型の設計解として、後続の事例が参照する先行モデルと言える。JR上野駅から徒歩約8分。公開レビューデータを集計したところ、当該エリアで広い客室と自炊対応への高い評価が確認された。
- 最寄り駅: JR上野駅から徒歩 約8分
- 客室サイズ: 34〜52 ㎡(全室キッチン・ダイニング付き)
- 転用元: 築27年のRC造8階建て事務所ビル
- 開業: 2018年2月8日
- 所在地: 東京都台東区上野7-14-4
Minn 日本橋水天宮前 — 中央区・水天宮前
オフィスビルを再生した2025年7月開業の29室。最大8名収容の客室で、グループ・長期滞在の受け皿を狙う。
Media Picks Score: 88 / 100 29室、アパートメントホテル。
目安価格 ¥38,000–¥56,000 / 泊 (2名1室・通常期)

2025年7月18日開業。運営はSQUEEZE。日本橋箱崎町のオフィスビルを客室へ用途転換した、全29室のアパートメントホテルである。最大8名まで収容できる客室を設け、家族・グループの長期滞在を主な受け皿に据える。水天宮・人形町・茅場町が徒歩圏で、歴史ある街区に位置する。オフィス躯体の転用という点で本稿のテーマに合致する直近の事例であり、都心の空室ビルを短工期で客室化する2025年の潮流を象徴する。開業から日が浅く公開レビューの母数は限られるが、集約された初期評価では立地と客室の広さが支持されている。
- 最寄り駅: 東京メトロ半蔵門線 水天宮前駅 徒歩圏
- 客室: 最大8名収容のグループ・長期滞在対応
- 転用元: オフィスビル(用途転換)
- 開業: 2025年7月18日
- 所在地: 東京都中央区日本橋箱崎町
トーセイホテル ココネ蒲田 — 大田区・蒲田
中古オフィスを一棟取得して転用した90室。本稿で最大の室数規模で、羽田前泊需要を見込む2025年12月開業。
Media Picks Score: 83 / 100 90室、ビジネスホテル。
目安価格は開業直後のためデータが薄く、本稿では省く。

2025年12月23日開業。トーセイが、1階にテナントが入居し2階以上が空室だった中古オフィスビルを一棟で取得し、自社の不動産再生ノウハウを活かしてホテルへ転用した。全90室と、本稿で取り上げる3施設で最大の室数規模である。ココネシリーズで初めてキッチン付き客室を設定し、館内には宿泊者専用のサウナ付き大浴場を備える。京急蒲田駅から徒歩約3分、JR蒲田駅から徒歩約8分で、羽田空港へのアクセスから前泊需要も見込む立地にある。空室オフィスの一棟取得から客室化まで進める点で、転用型の事業構造を最も明確に示す事例と言える。
- 最寄り駅: 京急蒲田駅から徒歩 約3分(JR蒲田駅から徒歩 約8分)
- 設備: キッチン付き客室、宿泊者専用サウナ付き大浴場、フィットネス
- 転用元: 中古オフィスビル(一棟取得)
- 開業: 2025年12月23日
- 所在地: 東京都大田区蒲田4-20-1
3施設から読む、転用型の事業構造
3施設を並べると、転用の設計解が見えてくる。オフィス躯体を転用した上野NORTHとMinnは、無柱の大空間を広めの客室に割り、キッチン付きのアパートメント型に振れた。一方でトーセイ蒲田は90室と室数を確保し、キッチン付き客室と大浴場を組み合わせた。転用元の平面と設備更新の自由度が、客室のかたちと運営タイプを規定している。共通するのは、立地の良い既存ビルを短工期で客室化し、新築では見合わない都心・準都心の需要を取りにいく構えだ。
制約は残る。窓割りはオフィス時代の外周に縛られ、配管の位置が水回りの新設を制約する。天井高や階高も躯体依存で、これらが客室仕様と投資額に影響する。転用は万能の解ではないが、建設費高騰と空室オフィスが併存する2026年の市況では、供給を増やす現実的な手段として存在感を増す。
よくある質問
Q. 法人契約や領収書の発行はできますか?
A. いずれの施設も個別の契約条件は運営会社により異なる。法人契約・請求書払い・領収書の宛名指定などは、各施設の公式サイトから直接問い合わせるのが確実である。転用型はアパートメント型が多く、長期滞在の法人利用に対応する施設もある。
Q. 長期滞在の割引はありますか?
A. キッチン付き客室を備える上野NORTH、Minn、トーセイ蒲田はいずれも長期滞在を想定した設計で、週単位・月単位のプランを設定する場合がある。料金は時期で変動するため、公式サイトで最新の長期プランを確認したい。
Q. Wi-Fiや作業環境はどうですか?
A. 転用元がオフィスビルの施設は客室が広く、デスクスペースを確保しやすい。回線速度は施設により異なるため、業務での利用を前提とする場合は事前に速度を確認するのが安全である。
Q. 羽田空港へのアクセスに向く施設はどれですか?
A. トーセイホテル ココネ蒲田が京急蒲田駅徒歩約3分で、京急線経由の羽田アクセスに向く。前泊・後泊の需要を見込んだ立地である。
本記事の参考情報
・Wikipedia: コンバージョン(建築) — 用途転換の一般的な定義と背景
・東京の観光公式サイト GO TOKYO — エリアの観光・アクセス情報
編集部から
躯体転用は「安く速く客室を増やす」手法として語られがちだが、実際には転用元の躯体が客室のかたちを規定する制約の強い開発である。オフィス転用が広い客室のアパートメント型に振れる一方、室数を確保する設計解もある。建設費と空室オフィスの二つが併存する2026年、この手法はさらに事例を増やす見通しだ。次は、転用元が商業ビル・ホテル・寮のケースで客室仕様がどう変わるかを、室数と坪単価から追いたい。